ローカルでのマーケティング戦略を確実に遂行するため広報・PR活動をベースとした総合的な支援を実施
~5年間にわたり日本市場向けのコミュニケーション活動を継続~
ブルームーン・マーケティング株式会社
代表取締役 野田 彩子
── ブルームーン・マーケティング株式会社(以下、ブルームーン・マーケティング)は2024年7月で15期目に入りました。「『旅 × IT × マーケティング』の分野で、お客様と共に新たな価値を創造すること」をミッションに掲げていますが、これまでにどのような事業を展開してきたのでしょうか。
代表取締役 野田彩子(以下、野田): 創業当初からずっと「旅行・観光に関するマーケティング課題を、テクノロジーを活用して解決する」という方針は変わりません。特にこの10年では、もともと主体であった広報・PR(Public Relations)に加えて、データ関連(リサーチ)の2つが主軸になっています。
リサーチ事業が発展した契機は、2013年に弊社の事業の一部であるスペインと日本間のマーケティング支援での活用を想定し、豊富な海外パネル(調査回答者)を持つパートナーと提携したことです。ほどなくして日本におけるインバウンド市場の開拓期と重なり、スペインのみならず、世界各国からの訪日旅行者向けのリサーチニーズに応えるため、いち早く同パートナーと複数のサービスをパッケージ化して提供を始めました。
2015年には「過去に訪日経験がある人」を対象にした「訪日ゲストリサーチ」を、2018年には実際に訪日旅行者がだいぶ増えてきたことを受け、宿泊・観光・商業施設様などが「目の前にいる旅行者」の声を聞くための「訪日Myゲストリサーチ」をリリースしました。この他、在日外国人の方の声をじっくり聞く各種調査のニーズにも対応し、サービスを拡充してきました。
組織規模は小さいままですが、2018年から頼りになる新メンバーも増え、「データを大事にする」姿勢と「広報・PRを中心とした国内外向けのコミュニケーション提案」をベースに、今や欠かせないSNSを活用した支援も強みとしながら、クライアントの様々な課題を解決し続けています。
── 野田さん自身は、どのような経緯で旅行や観光に関する事業に携わり始めたのでしょうか。
野田: 小さい頃から「旅行が生活の一部」と言えるほど、毎シーズン、そして週末には必ず家族で出かけていました。GWは軽井沢の保養所、夏休みは新潟の海で海水浴、年末年始は千葉の海で初日の出など、当時の行き先は国内ばかりでした。しかし父がよく海外出張をしていたため、現地からの美しい絵葉書や、日本と海外の価値観の違いなどに触れるたびに、海外への憧れが強くなっていきました。
特に覚えているのは、ミラノのドゥオーモからの絵ハガキ、皮の小さいポシェット、(当時は価値のわからなかった)モンブランのシャープペンなどです。他にも色々な国のお土産が家の中に飾ってありました。その後、自分がたまに海外出張に行くようになってから改めて、父は忙しい中でも家族のことを考えて、お土産を買う時間を毎回しっかり取ってくれていたことに感謝しました。
一方の母親も若い頃から旅行が好きで、JTBの前身の時代に最終面接までいったという話を聞いていました。最終的には、その後は鉄鋼会社の総務部で社内旅行の担当を楽しむ丸の内OLをしていたそうです。
こうして、自分が「好きなことを仕事にしよう」と思った時、私にとって自然に「旅行」の世界を選んでいました。

ずっと持っていた絵葉書
── 具体的にはどのようにキャリアを積まれたのでしょうか。
野田:まずは旅行に関する仕事に就きたいという思いから観光学科を卒業し、新卒で東日本旅客鉄道(JR東日本)に就職しました。旅行カウンターでのセールスに3年半ほど従事した後、どうしても海外で仕事をしたくて退社し、アメリカのワシントンD.C.で1年間のインターンシップ・プログラムに参加、後半はホワイトハウスの裏にある航空会社のオフィスで勤務しました。
航空業界に憧れはあったものの、実は渡米時に同時に注目していたのは「オンライントラベル」の分野でした。当時(1990年代後半)はまだインターネットの黎明期で、「今後の旅行はオンライン予約のニーズが確実に増えていくであろう」と考えていたのですが、まだ西海岸にしかOTA(オンライン旅行会社)の求人がありませんでした。しかし、「異国の地でのインターンシップ」という経験は、様々な意味で自分を強くしてくれました。悔しい思いもたくさんしましたし、チャレンジ精神、ハングリー精神も養われたと思います。(米国の免許を取得し、帰国する友人から車を買い、1人で少し遠くまで運転して乗馬にも行っていました)
同時に、この期間でキャリア形成の価値観も磨かれました。当時の日本では終身雇用が当たり前で、ジェネラリストを育てる「就社」とも呼べる働き方が主流でした。一方、アメリカでは専門性を磨くことを前提とした、真の意味での「就職」と呼べるキャリア形成が一般的であることを目の当たりにしました。
渡米後の最初にホームステイしていたアメリカ人家庭の母親が、二人の子供を産んだ後に大学院に通いキャリアアップする姿も印象的で、「いくつになっても学びの場に戻って良い」ことも知りました。そして「自分はどの分野で専門性を磨きたいのか?」と考えたとき、選んだのが「マーケティング」の分野でした。

自分で撮影したお気に入りの1枚
── 起業を考え始めたきっかけは何だったのでしょうか。創業された経緯と合わせて教えてください。
野田:もともと「いつか自分が家族を持っても、ずっと好きな仕事を続けたい」という願いがあり、社会人になってから自然と起業が目標になっていました。
やりたい仕事が明確になったアメリカからの帰国後は、マーケティング職にこだわり、外資系スポーツブランドでのアシスタントからスタートし経験を積んでから、旅行業の基盤を支えるテクノロジー企業(GDS)でマーケティング・コミュニケーション全般を担当しました。その後、専門性を磨くため米系のPRコンサルティング会社に転職し、グローバルPRのあり方を学びながら、がむしゃらに働きました。
そして、30代前半に社会人大学院に2年間通って経営全般とマーケティングを包括的に学んだ後、2010年にブルームーン・マーケティングを創業しました。創業直後は特に、大学院時代の教授、同期、先輩・後輩、またかつての上司や同僚からのお声がけなど、それまでにご縁のあった周りの方に本当に支えていただきました。改めて、心より感謝しています。
── 現在取り組まれている新規事業について教えてください。
「日本を伝えたい」海外/外国語メディアと「世界に知ってほしい」施設/サービスをつなぐBtoBマッチング・プラットフォーム『Blue Match』 https://bluematch.biz/
*2024/7/31発表のプレスリリースはこちら
野田:コロナ禍の2022年から検討・準備をスタートし、2024年初にα版をリリース、複数の初期ユーザー様にご協力いただき改善を重ね、7月末にようやくβ版をリリースしたところです。
これは、弊社が2017年から主力事業として展開している海外向け広報・PR事業において、お付き合いの深い海外メディアやインフルエンサーの皆さまから「今度○○に取材に行くから、他に良い取材先を教えて」「新しくオープンしたところや、まだ知られていないところを教えて」「取材してみたいところがあるけど、言語の問題で連絡が難しい」といった相談を頻繁にいただいたことがヒントになりました。
情報発信側は「新規開業」や「新しいニュース」を常にこちらのタイミングで提供しますが、海外からわざわざ取材に来るメディアにとっては、「自分が行くタイミングで、価値ある取材対象をできるだけ網羅したい」というニーズが当然あります。頻繁に日本に取材に来るようなメディアの中には、我々以上に日本のことを深く調べ、訪問し、詳しい方もたくさんいらっしゃいます。
*渡航費用もすべて主催側が負担してご招待するプレスツアーを除く
また、2019年のラグビーワールドカップ開催時に、弊社は埼玉県の熊谷ラグビー場を訪れる海外メディア向けに、周辺の観光地を紹介する広報・PRデスク業務を担当しましたが、この経験も非常に役立ちました。
大規模な国際イベントでは、世界各国から多くのメディアが取材のために来日し、長期間滞在します。その忙しい業務の合間に、彼ら自身も「せっかく日本に来たから、周辺エリアの自然・文化を体験し、観光もしたい」と考えることが多く、うまくスケジュールがマッチしてご案内できた際には、彼らがその体験を仕事としてのメディアだけでなく、個人のSNSなどでも共有し、読者やフォロワーに日本の魅力を発信してくれます。
こうした経験を踏まえ、「メディア側のニーズに応じながら、弊社がサポートする日本国内の旅行・観光関連の施設・サービスの想い(海外の方に知ってほしいこと)をマッチングさせることで、Win-Winの仕組みを作れるのでは」と考えました。
β版発表前の7月中旬に、東京・日本橋の隠れ家レストラン&バー『水戯庵 』 様にて、お付き合いのある在日を中心とした海外メディア・インフルエンサーをご招待したプレ発表会を開催しました。参加者メディアからは「Blue Match を通して、海外メディアの取材を受け入れている施設・サービスを一覧でき、取材を仲介・サポートしてもらえるのはありがたい」といった声も多く挙がりました。
Blue Matchのプレ・ロンチイベント @SUIGIAN
Blue Match 活動事例 @Any Wear, Anywhere
── 『Blue Match』の開発にあたり、ユーザーの声を何より重視しているとのことですが、具体的にはどうでしょう。
『Blue Match』は、ネーミングやロゴの作成段階から、親しいメディア関係者の意見を取り入れています。システム開発のUIも、メディアおよび施設・サービス側の双方のご協力ユーザーの意見を反映しつつ、日々改修を続けています。また、AIの自動翻訳機能と連携し、英語が苦手な方でも簡単に左右で比較しながら翻訳を確認・編集できるようにしています。もちろん最終的には我々が確認してから掲載します。
2025年3月まではβ版として追加開発を続けつつ、トライアル料金での提供を行い、4月以降にはより多くの全国の事業者様にご利用いただけるよう進めていく予定です。一方、マッチングの要となる海外・在日の外国語メディア(インフルエンサー含む)に向けても、今後この事業としての海外展開を加速し、「日本に取材に行く時には使ってみよう」と思ってもらえるように、今後は様々な支援機関のお力も借りながら邁進していく予定です。
── ブルームーン・マーケティングにおける、企業としての今後の展望を教えてください。
野田:新規事業として『Blue Match』をスタートしましたが、従来の業務委託型の広報・PRやリサーチ事業も、もちろん継続していきます。お客様ごとにカスタマイズした広報・PR活動=攻めの広報・PRであり、取材側の都合に合わせる『Blue Match』=待ちの広報・PRといえます。これらを組み合わせることで、現在のお客様にもさらなる付加価値を提供していきます。
「継続的な情報発信」は国内外における広報・PRの要ですが、人材やリソースが不足している中で、それを実現するのは難しいという現実も理解しています。特にハードルが高い「海外向け情報発信」を、少しでも継続しやすいものにするため、「待ちの広報」と、プレスリリースを出すほどではない情報発信メニューを組み合わせたプランを提案しています。
旅行・観光事業は平和産業であるため、世界中でコロナ禍による直接的かつ甚大なダメージを受けました。また、その後も度重なる自然災害が各地で発生し、今後も外部環境の変化がいつ起きてもおかしくありません。コロナ禍の中で「これまでと同じやり方を続けていてはダメだ」と実感したことが、今回の新規事業につながっています。
15期目を迎えたブルームーン・マーケティングとしては、第二創業といえる新たな気持ちで改めて組織・体制も整えながら、会社全体を次のステージへ進めていきたいと考えています。私自身としては、これまでお世話になった多くの方とのご縁・接点を再び構築し、大好きな旅行・観光業界に少しでも貢献できること願って、一歩ずつ着実に進めていきたいと思っています。
~Prasyさま、ありがとうございました!~
*記載内容は、インタビュー当時のものです。